ヨーロッパの歴史風景 先史・古代編




西暦387年、アウグスティヌスがイタリアのミラノで洗礼を受けた。やがて代表的な教父 キリスト教思想家となる。


古代の新興宗教キリスト教と旧約聖書

シャガールの描いた「アブラハムと3人の天使」 「新興宗教」と聞くと、なんとなく胡散臭いイメージがあるよね。今でこそ世界三代宗教の一つとなっているキリスト教なんだけど、その誕生の頃には胡散臭い新興宗教の一つと見られていたのかも。

そんな胡散臭い新興宗教ではないということを強調する為に誕生から間も無いキリスト教が強調したのが、古い歴史を持つユダヤ人の旧約聖書との関係だったみたい。

例えば、キリスト教の新約聖書の中の「マタイによる福音書」の冒頭に登場するアブラハムなんだけど、ユダヤ人が崇敬してやまないダヴィデやソロモン王は彼の子孫ということになっている。(右の画像はフィレンツェアカデミア美術館で見たミケランジェロのダヴィデ像。)

マタイによる福音書は更に続けて、イエス・キリストはアブラハム、ダヴィデ、ソロモンなどの子孫であると書く。そんなメシア(救世主)の教えがキリスト教であるというわけだ。

旧約聖書に基づいて歴史を考えたキリスト教思想家

そんなわけで旧約聖書はキリスト教の聖典とされたんだけど、思想家たちの中には旧約聖書に基づいて人類の、あるいは世界の歴史を考えた人々もいた。例えば西暦263年に生まれたエウセビオス、西暦331年頃に生まれたヒエロニムスなど。

シャガールの描いた「楽園」

エウセビオスによれば、神様がこの世を創造し、アダムとイヴを作り出したのは紀元前5201年のこととされているんだって。もちろん、当時は紀元前なんて言い方は無かっただろうけどね。(上の画像はアダムとイヴが住んでいた「エデンの園」を描いたシャガールの絵。フランス南部ニースにあるシャガール美術館で見ることが出来る。)

代表的な教父 キリスト教思想家 アウグスティヌス

そんな歴史の考え方を取り入れ、後のヨーロッパに大きな影響を与えたのが教父アウグスティヌスだった。西暦354年に北アフリカで生まれたアウグスティヌスは、西暦384年にイタリア北部に移り、西暦387年にミラノでキリスト教の洗礼を受けている。

イタリアの街ミラノのドゥオモ(大聖堂)の内部

上の画像はミラノのドゥオモ(大聖堂)の内部の様子なんだけど、その地下には西暦335年に作られた洗礼堂が残っているんだそうな。ひょっとすると、アウグスティヌスが洗礼を受けたのも、その洗礼堂においてのことだったかもしれないね。

その後、アウグスティヌスはギリシャ・ローマの古代思想を取り入れ、キリスト教の教義を確立し、「神の国」「告白録」などを著していったわけだ。

教父アウグスティヌスが考えた人類の歴史

アウグスティヌスの代表作「神の国」には、旧約聖書に基づく人類の歴史が書かれている。その記述によれば、神様が世界を創造し、アダムとイヴを作り出したのは紀元前5351年ということになるらしい。でも、人類の愚かさに腹を立てた神様が大洪水を起こし、ノアの箱舟に乗った人々と動物たちだけが生き残ったのは紀元前3089年のことなんだそうな。

ところが、エウセビオスやヒエロニムスなどの先達と同じくアウグスティヌスが苦労したのが、旧約聖書に基づく歴史と古代のエジプトの歴史との矛盾だった。

紀元前3世紀のエジプトの神官マネトが著したエジプトの歴史によれば、古代エジプトの起源は紀元前5599年に始まるとある。でも、それではアウグスティヌスの主張する人類創造よりも前にエジプトの歴史が始まることになってしまうんだ。(下の画像はエジプトの首都カイロ近くにあるギザの三大ピラミッドの眺め。)

エジプトのギザで見た大ピラミッド

結局、古代エジプトの歴史と旧約聖書に基づく歴史との矛盾について、アウグスティヌスも先駆者たちも納得できる答は出していないらしい。それでも彼の考えは近代に至るまでヨーロッパの人々に影響を与えてきたんだそうな。

ちなみに、このページの主役の人物はヒッポのアウグスティヌスとも呼ばれる。他方で、アングロ・サクソン人の支配下のイングランド南部カンタベリーでキリスト教を広めた人物はカンタベリーのアウグスティヌス。混同しないようにしなきゃね。

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