ヨーロッパの歴史風景 近世編




西暦1692年、スコットランドの谷間の村でグレンコーの悲劇が起こった。(イギリス)


いまだに尾を引くグレンコーの悲劇
(スコットランド、イギリス)

イギリス北部スコットランドの奥地ハイランドの片隅にあるスリー・シスターズと呼ばれる小高い岩山(下の画像)が見下ろすグレンコー(嘆きの谷)という小さな村。ここがこのページのお話の舞台となったんだ。

悲劇の舞台グレンコーの村を見下ろすスリー・シスターズ(スコットランド、イギリス)

何の変哲も無い田舎の村。でも、この村がスコットランドでは有名な場所なんだ。というのも、1692年に「グレンコーの悲劇」と呼ばれるスコットランドの歴史の中でも有名な出来事が起こったから。

その日、オランダ出身のオレンジ公ウィリアム(名誉革命によってイギリス王ウィリアム3世)を王とする政府の為に働くハイランド出身の兵士たちによって、グレンコーの村に住む同じハイランドの人々が虐殺されるという事件があったんだ。

ジャコバイトとウィリアマイト
清教徒革命の後も続く対立

1688年、イギリスで名誉革命が起こった。スチュアート家出身の王ジェームズ2世(スコットランド王としてはジェームズ7世、清教徒革命によって処刑されたイギリス王チャールズ1世の息子)が廃位され、オレンジ公ウィリアム(イギリス王ウィリアム3世)が王位を得た。

ところが、スコットランド奥地のハイランドには、いまだにジェームズ2世とスチュアート家を支持するクラン(氏族)がいた。彼らを称してジャコバイトと呼ぶ。他方、同じハイランドのクランの中には、オレンジ公ウィリアムを支持するウィリアマイトと呼ばれるグループもいたんだ。

そしてグレンコーの悲劇

そのウィリアマイトの中にはウィリアム王の政府の為に兵士となって働くクランもいる。その中の一つであるキャンベル家の兵士たちが、ある日グレンコーの村に宿泊した。グレンコーに住むマクドナルド家の人々は、ジャコバイトではあったけれども、同じハイランドの人々であるキャンベル家の兵士たちを暖かくもてなしたんだ。何故ならば、それが当時のハイランドでは当然のしきたりだったから。

悲劇の舞台グレンコーの村の周辺の様子(スコットランド、イギリス)

ところが、西暦1692年2月13日の早朝、ウィリアマイトのキャンベル家の兵士たちが暖かくもてなしてくれたマクドナルド一族の人々に襲い掛かった。女性や子供も含めて、38名がそこで虐殺されたらしい。(上の画像は、今のグレンコーの村の周囲の様子。)

グレンコーの悲劇をめぐって今も続く議論

グレンコーの悲劇で犠牲となったマクドナルド一族の子孫の中には、虐殺はキャンベル一族とその兵士たちによる犯罪だったとして今も糾弾し続けている人々がいる。

対するキャンベル一族は、あの悲劇は当時のイギリス政府による命令に従ったものであり、キャンベル家の犯罪ではないと反論している。

300年以上も前のスコットランドの歴史の悲劇。しかし、今も続く議論。それ自体が悲劇なのかもしれないね。グレンコー 嘆きの谷はただ静かにたたずむだけなんだけど。

スコットランド独立についての住民投票

グレンコーの悲劇についての議論とは別に今も続いているのが、スコットランドの独立の動きなんだ。西暦2012年10月のことなんだけど、スコットランド自治政府のサモンド首相はイギリスのキャメロン首相との間でスコットランド独立の是非に関する住民投票を西暦2014年に行うことで合意したとか。

その住民投票まで1年を切った西暦2013年11月、スコットランド自治政府の首相にしてスコットランド民族党の党首のサモンド氏が、独立後のスコットランドのあり方についての案を発表したそうな。エリザベス女王を君主とし、イギリス・ポンドを通貨とする。独自の軍隊を組織しつつ、欧州連合(EU)やNATOにも加盟する。北海油田の収入が財政のかなりの部分を支えるとされている。

ところが、そんな独立スコットランドの未来像について、少なくない住民が不安を持っているみたい。西暦2014年に行われる住民投票で独立支持が多数を獲得するとは必ずしも言えないんだそうな。はてさて、これからスコットランドはどうなるのかな。

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